新東京タワー(東京スカイツリー)を考える会

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2013/06/11 東京スカイツリー周辺における電磁波測定調査

テレビの地上波デジタル放送(地デジ)電波を関東地方へ送信することなどを目的に建設された東京スカイツリー(東京都墨田区)。この新タワー周辺で電磁波を測定した。測定データについてはなお整理、検討中だが、これまで分かったことについて、とりあえずのご報告をさせていただく。

スカイツリーからの電波

スカイツリーからは、地デジ以外にも様々な電波が送信されている。主なものは、以下の通りである(表1)。それぞれの送信アンテナの場所は、図1の通りである。

(1)マルチメディア放送

NTTドコモのグループ会社が運営する「NOTTV(ノッティーヴィー)」が、昨年4月1日の放送開始時より、関東地方への電波をスカイツリーから送信している。 NOTTVはスマートフォンなど携帯端末向け専用のテレビ放送。2011年の地上波アナログテレビ放送終了で空いたVHF帯の電波を利用している。ドコモの携帯電話等のうち、この放送に対応している一部機種を入手しないと視聴できない。

(2)タクシー無線

各タクシー業者が共同で設置した「東京スカイツリータクシー無線集中基地」が昨年(2012年)3月初旬から試験運用を開始し、同年4月23日から本運用された(1)。 スカイツリーの第一展望台の下、地上約300m付近の南西および北東の2か所にアンテナが設けられ、東京23区内全域をサービスエリアとしている(2)。

(3)FMラジオ

FMラジオのJ-WAVE、NHKFM、及びFM電波を利用したVICS(道路交通情報通信システム)は昨年4月23日、東京タワーからスカイツリーへ電波送信所を移転させた。 TOKYO FMは、スカイツリーへ移転せず、東京タワーに留まっている。送信アンテナを従来より100m以上高い東京タワーの頂上部(高さ333m)へ移し、今年2月11日から運用を始めた(3)。

(4)地デジ(TOKYO MX)

テレビの地上波デジタル放送のうち、東京ローカル局であるTOKYO MXの電波は、在京テレビキー局に先駆けて、昨年10月1日にスカイツリーからの電波送信を開始した。TOKYO MXの場合、東京タワーからの電波とスカイツリーからの電波とは周波数が異なっており、両タワーから同時に電波を出しつつ、東京タワーからの電波のほうを段階的に弱くしていった。約7カ月かけて受信障害を報告した家庭などへ対応を取り、今年5月13日、東京タワーからの電波を停止した。 しかし、キー局送信所のスカイツリー移転によって、TOKYO MXに新たな受信障害が発生しているという(4)。

(5)地デジ(キー局)

キー局の場合は、東京タワーからスカイツリーへの移転前後で、周波数は変わらない。このため、TOKYO MXのように両タワーから同時に電波を送信すると、干渉による受信障害が発生する。なので、スカイツリーからの電波送信開始と東京タワーからの停波は同時に行わなければならない。 各キー局は、スカイツリーへの移転による電波障害の規模は大したことないと考えていたとのことだが、スカイツリー完成後の調査で電波障害が大規模に発生することが判明。予定していた今年1月の移転を延期し、11万件以上に及んだ受信障害対策を進めたうえで、5月31日午前9時に移転した。もちろん、この日までに受信障害がゼロになったわけではなく、午前9時から1時間だけで787件もの受信障害情報が寄せられた(5)。「5月にスカイツリーへ移転予定」と叫び続けてきたキー局の面目を保つために、視聴者が犠牲になった。

表1・スカイツリーから送信される主な電波

 

図1・スカイツリーの主なアンテナの設置位置

受信テストを利用した電磁波測定

スカイツリーからの電波によって、周辺環境はどのように変わるのだろうか。当会は昨年にも、スカイツリー周辺で高周波電磁波の測定を行った。キー局の送信所移転後と比較することが目的だった。 その後、前述の通り、キー局の送信所移転による受信障害が判明。実際に障害が起きた家庭などについて個別に対応するしか手立てがないため、各キー局は、東京タワーからの電波を一時的に止めて、スカイツリーから電波を出す「受信テスト」を繰り返した。障害発生に気づいた視聴者からの連絡を受けて、必要な場合は業者が派遣された。

受信テストは昨年12月から、土曜日の早朝などに5分間行われた。3月からは日中なども含め1時間のテストが行われ、5月には「移転リハーサル」と称して、3時間、6時間、10時間のテストも行われた(最初と最後の1分間は説明を行うなどのため、テスト送信の正味時間はそれぞれ2分間短い。たとえば3時間の受信テストの場合、スカイツリーから実際に電波が送信されるのは2時間58分となる)。

当会は、この受信テストを、環境電磁波測定の好機ととらえた。なぜなら、受信テスト中と、その前後の受信テストを行っていない時間帯(または前後の日など)に測定を行えば、スカイツリーからの電波の中で最大出力であるキー局の電波がある場合とない場合との比較ができるからである。 第2世代携帯電話サービスが昨年7月に終了し、LTEやWiMAXの基地局が増え、また、通信量が多いスマートフォンが普及するなど、私たちの身の回りの電磁波環境は急速に変化している。受信テスト中と、その前後の時間帯(またはその前後の日など)とで測定すれば、数時間から1日の間に携帯基地局が増える確率はあまり大きくないので、キー局地デジ電波の送信場所の違い以外は、まあまあ同じ条件下で測定できる。

もちろん、まったく同じ条件というわけではなく、また、測定時には携帯電話端末・基地局の電波などスカイツリー以外の電波の影響を受けざるを得ない。スカイツリーからの電波だけを正確に調べるためには、周波数ごとの強さが分かるスペクトラムアナライザで測定する必要があるが、残念ながら私たちは入手できない。たとえ大まかであっても、スカイツリーによって私たちの環境がどう変わるのか、地元住民として把握しておきたいと考えた。

また、地上波アナログ放送電波を送信していた東京タワー周辺で2001~2年、NPO法人市民科学研究室が行った電磁波測定調査(6)でもわかるように、複数の局から少しずつ違った周波数の電波が地上に向けて送信される場合、周辺の建物の位置や形も関係して、反射波や回折波の重ね合わせが生じて、特異的に高い値を示すスポットができることがある。そうしたスポットを計測によってあらかじめ見出しておくことも重要だと思われる。

測定方法

(1)測定場所

市民科学研究室代表の上田昌文さんによるアドバイスにしたがい、スカイツリーから8方向へ水平距離で100m置きに測定することにした。測定場所の設定のしやすさなどから、方向によってタワー近くの0.1~0.3km地点から、3.0(西方向)~4.9km(南方向)地点にかけて測定。測定場所は全部で269カ所となった。

測定場所は、次のように決めた。ネットの地図上で距離を測定できるサービス「キョリ測」(7)を利用し、地図上にタワーから100m置きに印を付け候補地とした。候補地へ行き、タワーがよく見えない場合は、前後最大30mまで距離をずらして見える場所を探すか、または最低でもタワーの地デジアンテナが見える場所を選んだ。タワーが見える場所が見つからない場合は、その距離については測定しなかった。

(2)測定日時

スカイツリー受信テストの実施時間が1時間の場合は、テスト開始前の概ね3時間以内、テスト中、テスト終了後の概ね3時間以内の、計3回ずつ同じ地点を測定した。 受信テストの実施時間が3時間以上の場合は、原則としてテスト前日のだいたい同じ時間帯、テスト中、テスト翌日のだいたい同じ時間帯の、計3回ずつ同じ地点を測定した。

(3)測定器

当初はTM-195を使用したが、信頼性が高いとされるEMR-300を電磁波問題市民研究会からお借りできた。結局、TM-195で測定済みの場所も含めて、全地点をEMR-300で測定した。

タワーから0.7kmに“ホットリング”

受信テスト中の最高値は0.621μw/c㎡(1.53V/m)だった(60秒平均値。V/mで測定しμw/c㎡へ換算。以下同様)。この地点は東京タワーから送信中の測定でも0.357~0.376μw/c㎡(1.16~1.19V/m)と高めであった。 電磁波問題市民研究会で測定を担当している鮎川哲也さんにデータをお見せしたところ「これまで測定した他のポイントと比べて(キー局電波が送信中か否かに関わらず)全体的にかなり高い値の場所が多い」との指摘であった。

8方向の測定結果のうち、東方向を図2に示す。キー局電波が東京タワーから送信されている時間帯における2回の測定値の平均値と、受信テスト中の測定値との差が、スカイツリーからのキー局電波のおおよその強さを示している。タワーから離れていくと電波は単純に右肩下がりで弱くなるのではなく、強くなったり弱くなったりを繰り返しながら弱くなっていった。上田さんは「東京タワーで測定した時と同じパターンが見られる」と指摘した。

すべての方向でタワーから0.7km地点(方向によっては0.6km又は0.8km地点)の電波が特に強く、東京タワーからのキー局送信時(2回測定の平均)と比べて0.128~0.554μw/c㎡上昇し、0.281~0.613μw/c㎡(1.03~1.52V/m)であった。ホットスポットならぬ、いわば“ホットリング”が生じるわけだ。もちろん「ホット」と言っても、電波防護指針(数百μw/c㎡)を大幅に下回ってはいるのだが。

受信テスト中の測定値が特に高かった測定地点と、受信テスト中の測定値が東京タワーから送信時の測定値に比べて特に上昇した地点とを、図3に示した。タワーから0.7km以外にも、上昇幅が大きくなる距離がありそうだ。

逆に、タワーの近くであってもスカイツリーからの送信時と東京タワーからの送信時とで測定値にあまり差がなかった距離もあり、たとえば1.3km地点(方向によってはその前後)がそうであった。総務省によると、地上10mの高さで、放送電波が0.001V/m以上ならば視聴できるとのことである(8)。

以上をまとめると、タワー周辺地域がタワーから受ける電磁波の影響は一様ではなく、タワーからの距離が少し変わるだけで電磁波の強さが比較的大きく変化する場合がある、ということが言えそうだ。

図2・スカイツリー電波測定(東方向)

 

図3・キー局地デジの受信テスト中(スカイツリーから送信中)に特に測定値が高かった地点、及び、東京タワーからの送信時に比べて受信テスト中の測定値が特に上昇した地点

謝辞など

当会では、測定地点からのスカイツリーの見え方と測定値の関係等々、今後とも得られたデータの整理、検討をしていく。

ついに5月31日、スカイツリーからキー局電波の送信が始まった。私たち地元住民は、従来とは違う環境に住むことを余儀なくされている。住民に健康影響等が出ないことを願ってはいるが、携帯電話基地局レベルの電磁波で健康影響が起きているという全国各地からの報告を鑑みれば、安心することはできない。

最後に、測定方法などについてアドバイスをいただき、一部の測定にも参加してくださった市民科学研究室の上田昌文さん、測定結果へのコメントなどをいただいた電磁波問題市民研究会の鮎川哲也さん、測定器をお貸しくださった電磁波問題市民研究会に、お礼を申し上げます。

網代太郎(新東京タワー(東京スカイツリー)を考える会)

(1)フジテレビ
(2)日本アンテナ株式会社
(3)株式会社エフエム東京
(4)電磁波問題市民研究会からの情報
(5)2013年5月31日付『毎日新聞』
(6)
市民科学研究室
(7)キョリ測
(8)総務省「地上デジタルテレビ放送のエリアの目安(関東広域圏東京親局)」

2013/06/07 東京スカイツリー:送信移転から1週間 電波障害、新たに3万件

東京タワーから東京スカイツリーに在京テレビキー局の電波送信が切り替わって1週間が過ぎた。切り替え後、電波障害は新たに約3万件見つかった。さらに、これまで映っていた千葉や埼玉などのローカル局の番組が見られなくなる“2次被害”も多発している。

NHKと在京民放5社が5月31日午前9時に送信所を切り替えてから、5日までにコールセンターに寄せられた障害の件数は2万9978件。昨年12月から移転直前まで続けた試験放送で見つかった分を合わせ15万3958件に上った。

5月24日の移転日発表の際、NHKの久保田啓一理事は記者会見で「ほぼ大丈夫といえる段階になった。総数は12万5000件を想定している」と、円滑な移転に自信をのぞかせた。しかし、総数は想定を超え、移転後判明分は全体の2割近くに達した。昨秋から目標と定めた5月移転に固執し、未対策の視聴者が置き去りにされた。TBSの石原俊爾(としちか)社長は「想定より多いが、1日に2500件は工事ができる。スムーズに対応できる」と語る。

移転前の障害は、対策がほぼ完了。問題は移転後に判明した分だ。全てのチャンネルが映らないケースは1割程度で、他は一つか二つのチャンネルだけ映らないケースが目立つという。映らないチャンネルが一部だと工事を急がない人が多いせいか、コールセンターにクレームが殺到する事態は免れている。

一方、新たな問題も浮かび上がった。キー局は見られるが、ローカル局の千葉テレビやテレビ埼玉、東京タワーから送信している放送大学などが見られなくなってしまうケースだ。東京タワーと比べ2倍近い高さのスカイツリーは、障害物が少なく地面などに反射せずに強い電波が届きやすい。このため、千葉や埼玉などでは電波の強さを調節するブースターや、アンテナの向きを調整しないと、地元局の送信所や東京タワーの電波が受けられなくなった世帯が多い。

移転後に見つかった障害の約4割を、ローカル局が占める。テレビ埼玉には視聴者から「映らなくなった」という問い合わせが1日に100件以上寄せられており、同局幹部は「一刻も早く対策工事を進めてほしい」と話す。NHKとキー局はこうした2次的な障害の対策費も負担。移転後判明した障害の約6割が対策工事を終えているという。

(毎日新聞)

2011年総務省「公開」資料 スカイツリー移転による電波障害

 テレビの地上波デジタル放送の電波送信場所が東京タワーから東京スカイツリーへ移転することにより、新たな受信障害地域が発生するため、現在、在京テレビ各局は、2012年5月の移転を目ざし、スカイツリーからテスト送信を行い、正常に受信できるかどうか確認するよう、視聴者へのPRに躍起です。
 受信障害の発生は、当会が当初から指摘していましたが、総務省はなんと、受信障害はほとんど起こらないと明言していたのです。
 総務省は在京テレビ6社に対して2007年12月12日付で、新タワー移転に伴う影響の内容、規模及び程度や、それらへの対応策などについて翌年4月までに回答するよう求めました(ローカル局である東京MXテレビに対しては、同社による新タワー移転方針決定後、2008年12月に同様の要請をしました)。
 6社は連名により2008年4月23日付及び同年7月31日付で、総務省へ回答書を提出(MXテレビも2009年3月25日付及び同年4月23日付で提出)。これらの回答を踏まえて総務省の奥放送技術課長は2009年1月16日に開かれた地デジについての審議会で、委員らに以下のように説明しました。
 「(東京タワーと東京スカイツリーの)方向が大きく変わるというところは、主として東京23区とか、そういった比較的タワーから近いところであるので、非常に電波の強さが強いところでもあり、必ずしもアンテナの向きがタワーを向いてなくても、引き続き今のままで視聴可能であろうということである。比較的電波が弱いところは、距離が離れているので、相対的にアンテナの方向というのは変わらないということで、それについても影響はほぼ出ないだろうということである。あと、ビル陰の影響についても同様であり、スカイツリーというのは、東京タワーに比べタワーの高さがかなり高くなるので、比較的影響の出やすい都心部においては、そのビル陰の影響はほとんど出ないだろうと。あと、離れているところについても、基本的には新タワーと旧タワーの方向が遠いところではさほどずれないということで、ビル陰の影響も大きく変わらないだろうということであるので、現時点においては視聴者への影響はほとんどないのではないかという見方である。仮にもし影響が出るという場合においては、これは放送事業者の事業上の都合で移転するということであるので、放送事業者側で責任を持っていきたいということでお話を伺っているという状況である。」(注1)
 「視聴者への影響はほとんどない」という総務省の説明が本当なのかを確認するために、筆者(当会共同代表・網代)は総務省に対し、テレビ各社による回答文書などの開示を請求しました。それらには、新たな混信が想定される地域や、新たなビル陰障害が想定される地域について図示され、混信の発生規模についての文章が書かれていましたが、図も文章もほとんどすべて墨塗りされ、非開示とされました。非開示部分については「当該法人の内部情報であり、公にすることにより、当該法人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるため」などの非開示理由が付けられました。また、筆者は同時に、テレビ各社による回答の妥当性について総務省(又は総務省が委託等を行った第三者)が検討評価した文書についても開示を求めたが、そのような文書は不存在とのことでした。
 筆者は納得できなかったので、総務省に対して2009年8月に情報不開示決定への異議を申し立てました。異議申立ては法律に基づき、情報公開・個人情報保護審査会に諮問され、同審議会で審議されました。テレビ各社はそれぞれ、同審議会に情報不開示を求める「意見書」を提出しました。意見書には以下の通り書かれていました。
 「(開示を求められた)提出資料には、2008年4月及び7月段階で暫定的に実施したシミュレーション検討による予測値を元に作成しています。(略)今後の検討制度の向上や受信対策技術の具体化・効率化等により、2008年4月段階の発生予測と2012年の新タワーへの移転の(ママ)伴い生じる受信件数や規模には相当の乖離があると考えています。(略)(当該資料が)公表されますと多くの受信者等に無用の混乱を与えることにもなりかねません」(株式会社テレビ朝日提出の2009年6月16日付「行政文書の開示に関する意見書」)
 他のテレビ各社の意見書もだいたい同じ内容でした。すなわち、筆者が開示を求めた資料の墨塗りの下に “受信障害などがそれなりの規模で発生する”ことが記載されていることを、テレビ各社自らが事実上認めていたわけです。にもかかわらず、総務省課長は「視聴者への影響はほとんどない」と公の場で明言していたことになります。情報を隠したうえでウソをつくのは、原子力発電所の問題と変わらない、日本の官庁の体質です。
 筆者の異議申立てについては、同審議会は1年半以上もかけて審議した末、2011年6月13日付で、不開示を妥当とする答申を出しました。
 ただし、審議中の同年2月に総務省が墨塗り部分のうち、ごく一部の追加開示を認めました。このとき、総務省が開示した資料は、以下の通りです。

(1)新タワーへの放送局の無線設備の設置について(要請)
(2)東京スカイツリーへの放送局の無線設備の設置について(要請)
(3)新タワーへの親局移転に関する検討状況について(報告)
(4)新タワーへの親局移転に伴う隣接チャンネル混信の検討結果について
(5)「東京スカイツリーへの放送局の無線設備の設置について(要請)」に対するご回答
(6)新タワー移転に係る補足資料

 注1 総務省「情報通信審議会地上デジタル放送推進に関する検討委員会(第42回)議事要旨」12~13頁

書籍『携帯電話でガンになる!? ~国際がん研究機関評価の分析』

携帯電話でガンになる!? ~国際がん研究機関評価の分析 2011年5月31日、国際がん研究機関は、携帯電話電磁波を含む高周波電磁波を「2B」、すなわちヒトへの発がんリスクの可能性あり、と評価すると発表しました。この評価により、電磁波はもう安全だとは言えなくなりました。
本書は「2B」評価の内容と意味を詳しく分析し、電磁波問題にどう対処すれば良いのかを提起します。

電磁波問題市民研究会編著/緑風出版/四六判240頁/2100円

【内容 筆者・敬称略

第一章「高周波の健康影響を考えるために」上田昌文=NPO法人市民科学研究室代表
第二章「電磁波リスク論の枠組みを検討し、構築する」上田昌文
第三章「「発がん可能性あり」(2B)の評価について」植田武智=科学ジャーナリスト
第四章「海外ではどう反応し、どう対処したか」矢部武=ジャーナリスト
第五章「携帯電話基地局からの高周波電磁波」大久保貞利=電磁波問題市民研究会事務局長
第六章「新しい技術で増える電波」(東京スカイツリーなど)網代太郎=新東京タワー(東京スカイツリー)を考える会共同代表
第七章「電磁波障害に医学は何ができるか」宮田幹夫=北里大学名誉教授
コラム1「電磁波過敏症と思われる症状に対する歯科治療例」藤井佳朗=新神戸歯科院長
コラム2「内科医から見た電磁波過敏症対策」石川雅彦=医師
第八章「携帯電話・電磁波に対して市民・行政は何ができるか」網代太郎

2012/07/08 スカイツリーで地元に悪影響

スカイツリーで地元に悪影響 区内商店売上減、ごみ、騒音…

7月8日に都内で開かれた「第9回東京自治研集会」(東京自治労連などによる実行委員会主催)の「開発・まちづくり分科会」で、「すみだスカイツ リー開 発の光と影」と題して東京都墨田区議会議員(共産党)の西恭三郎さんが報告しました。「開発」がこの分科会のテーマですが、当会共同代表・網代も主催者側 からの依頼で、 スカイツリーの電磁波による健康影響の恐れや、地デジタワーとしてはそもそもスカイツリーは必要不可欠なものではないことを報告しました。電磁波について 西さんも懸念を持っていて「健康調査を行うよう保健所に働きかけている」と発言しました。
ここでは、西さんの報告の中から、現状報告についての部分を中心に紹介させていただきます。

 スカイツリーが立地する墨田区はもの作りの街で、町工場が多い街だ。工場の人たちが商店街で日用必需品を買い求めている。観光にはほとんど縁がなかった。観光地には宿泊施設があるものだが、墨田区に主なホテルは三つぐらいしかない。
しかし、スカイツリーができて様変わりした。昨年あたりからマスメディアが連日報道し、工事中は写真撮影の人が殺到した。5月22日の開業以来は、毎日何万人以上が押し寄せてくる。
昭和33年に東京タワーが出来た時には、下に店はそれほどなかった。しかし、スカイツリーは売り場面積5万2000㎡の大型商業施設「東京ソラマチ」を作った。この面積は、墨田区内の小規模小売店の総売り場面積の半分にも相当する。

がめつい東武
 この中に312店舗が入ったが、そのうち300店舗が都心などからのブランド店だ。ソラマチの店じたいは赤字になっても、広告塔になれば良いということだろうと思う。
私たちは墨田区内の商店の入居を優先すべきと主張した。最初に区内商店対象のテナント募集説明会が開かれ400店舗が集まった。しかし、坪3~5万円の 家賃に加え、売上げに応じて7~17%を支払うという条件だったため、とても採算が合わないということで、入居の希望は一社もなかった。
一方、都心で説明会を開いたら1400店舗が集まった。その中から300店舗に絞った。
区内から一社も出ないのはたいへん問題ではないかということで、墨田区も交渉して、ようやく15店舗が入った。これらも、墨田区内では相当有力な企業だ。
東武は家賃で絶対に妥協しない。仕方がなく、区で年間2900万円を負担し、区内物産の直販所を設けた。
私は東武鉄道の取締役会の議事録を入手して驚いた。このツリーは千載一遇のチャンスだ、どう東武がもうけるかだ、いかにして公の金をつぎ込ませるのかに あるのだ、という趣旨のことを取締役会で議論していた。それぐらいの、がめつさだ。東武鉄道は、区民のためということは頭の隅っこにさえなく、自分のグ ループ企業がどれだけ利益を上げるかだけだ。
さすがに東京新聞が開業日に社説で「残念なのはスカイツリー内に併設される商業施設『東京ソラマチ』が、ブランド店ばかりなことである。テナント料が高く、出店できなかった地元商店街では客足が遠のく恐れもある。地域と共存する配慮を望みたい」と書いた。

売上げ10分の1の店も
 工事中は、中に入れないので、近隣の商店街はけっこう繁盛した。テレビでも放送されたが、そば屋は天丼のエビをタテにしてツリーの真似をしたら売れたとか、何でもかんでもツリーの格好をすれば売れた。
ところが、開業日とともに様変わりした。一番響いたのはお土産店で、人が全然こなくなった。店の人がお客に尋ねたら「スカイツリーやソラマチの中で買わないと、お土産にならない」と言われた。
数百m離れたある居酒屋は、開業前は毎日10~15万円はコンスタントに売り上げていたのに、開業後は1万円しかないこともあるという。「これからどうなるのだろうか」という悲鳴が聞こえている。
区はスカイツリーの経済効果を880億円と試算したが、今後を見なければならない。
一度はスカイツリーへ行ってみようという区民も多い。展望台は予約でいっぱいなので、スカイツリータウンの中を散歩する。中で安売りをしている弁当を 買ったりする。主婦もお茶をする時にソラマチへ行く。生鮮品も売っているので、普段の買い物もできる。それで他の地区の売上げが減る。

周遊しない観光客
 区はスカイツリーの観光客になんとか区内を回遊してもらうと、ミニバスを3路線開設した。乗車料100円で、1回 乗り換えても100円のまま。これを観光客でなく、区民が買い物や通勤に使っている。タワーを中心にしたルートなので、区民がバキュームのようにタワーに 吸い寄せられている。競合する都営バス路線の削減の話があり、削減反対の署名運動が起きている。
区内を周遊したくても、観光バスの駐車場が足りず、2時間しか駐車できないので、展望台やソラマチの中を見るだけでも時間が足りない。
観光バス以外の客も、東武がスカイツリーから運行している浅草、上野や東京ディズニーリゾートなどへの直行バスに乗って行ってしまう。
中で買った弁当を表のベンチで食べて、ごみを捨てていくなど、ごみが大変な状態だ。ガムを捨てられることも多く、近隣町会が一生懸命ごみ拾いをしていたが、ガムをとるのは大変。また、スカイツリーの前の川の中にもごみが捨てられる。
ツリーの下だけは道路がきれいになったので、夜は暴走族にもってこいの遊び場になり、朝まで話し声や爆音で近隣住民が眠れないという事態も起きた。

区の関連支出で区民生活にしわ寄せ
 区は3900万円の補正予算を6月議会で組んで、専門業者にガムや川のごみなどをとってもらったり、夜間に警備員2名を配置することにした。この費用は東武が負担すべきと区議会各党が主張し、区と東武が交渉中だ。
タワー関連事業への墨田区の支出は、われわれが議論して約30億円減らしたが、それでも108億円にのぼる。また、スカイツリーの隣に踏切があり、観光 バスはここを通るので大渋滞が起きている。これを高架化するために275億円かかり、約60億円が墨田区の負担になる。合わせて200億円近くで、墨田区 の区民税の一年分に相当する金額だ。税金の使い方がこれで良いのかと思わざるを得ない。
東武から墨田区へ税金は一銭も入ってこない。特別区なので、法人税、固定資産税は都が徴収する。雇用は5000人のうち非正規1200人が区内からだが、これで区民税の徴収は増えるのか。
墨田区は全国に先駆けて、住宅の不燃化助成制度をやっている。33年間で83億円を支出した。ツリーのためにこの5年間で使ったのも、ちょうど83億 円。しかも、今の山﨑昇区長に変わってから、お金がないという理由で、不燃化助成の金額はどんどん減っている。前の2人の区長のペースで助成を進めていた ら、現在の倍以上の不燃化ができて木造住宅密集地域の解消も大きく進んでいたはずだ。
一方で、東武グループは一年間で純利益200億円を見込んでいるという。スカイツリーは1000億円かかったと言われており、5年でもとをとることを目指しているのかもしれない。