新東京タワー(東京スカイツリー)を考える会

新東京タワー(東京スカイツリー)を考える会

2007/10/12 東京都への意見書

2007/10/12 東京都への意見書

当会が東京都に提出した、環境影響評価書案への意見書案の内容を、ここに掲載します。

東京都環境局 都市地球環境部
環境影響評価課 御中

環境影響評価書案に対する意見書

1. 名称、代表者の氏名及び東京都の区域に存する事務所又は事業の名称
名称:新東京タワー(すみだタワー)を考える会
代表者:大久保貞利、網代太郎
事務所:(略)

2. 対象事業の名称
業平橋押上地区開発事業

3. 環境保全の見地からの意見
3-1. 電磁波
3-1-1. 電磁波による健康影響
 本事業の核となるのは、地上波デジタルテレビ放送(地デジ)の電波を送信すると説明されている新東京タワーの建設です。本環境影響評価書案は、新東京タワーからの電波送信によってもたらされる、周辺地域における電磁波上昇レベルの予測値を示し、それらは国の「電波防護のための基準への適合確認の手引き」に基いて計算した、各周波数の「電力束密度の予測値÷国の電波防護指針値」の和は最大0.27であり「1」を下回っているため、「地域住民の日常生活に影響を及ぼすことはないものと考える」と予測しています(365頁)。
 しかし、電波防護指針値を下回るような「弱い」電磁波の長期曝露と健康影響との因果関係は証明されていないものの、その疑いを示すさまざまな研究報告があり、「影響を及ぼすことはない」と言うことは適切ではありません。
 世界保健機関(WHO)の国際電磁界プロジェクトは、高周波(新タワーからの電波は高周波です)についての環境保健基準は来年以降発表する予定です。つまりWHOは高周波の健康影響について現在検討中であり、電波防護指針レベルより弱い高周波電磁波について安全であるとの結論は出していません。
 「弱い」電磁波の長期曝露による健康影響の疑いが否定し得ないことから、いくつかの海外の国や自治体は、予防原則の考え方等から、国際指針値や日本の電波防護指針に比べて、格段に厳しい基準値等を設けています。
 環境影響評価書案に示された新東京タワーからの電波の予測値は、こうした海外の国や自治体の基準値等を超える値となっています。
 たとえば、イタリア、中国では、人が長時間滞在する場所の電磁波(イタリア3MHz~300GHz、中国300MHz~300GHz)について、ともに0.01mW/c㎡に規制しています(総務省「諸外国における電波防護規制等に関する調査報告書」2004年3月)。
 日本の電波防護指針と比較する場合、日本では周波数ごとに基準値が異なるので単純に比較はできないのですが、本評価書案に示されている地デジ電波9波のうち、真ん中の周波数(約539MHz)でみると、

    イタリアなどの基準値0.01÷日本の基準値0.3594≒0.028

となります。
 本評価書案「資料編」に示された予測値は、新東京タワーから1000m以内では、ほとんどの地点でこの0.028を上回っており、1000mを超えても、なおしばらく上回りそうだということが分かります(図表参照)。
 以上のように、事業者は本評価書案において、電磁波の危険性について慎重な対応を講じている海外の国や自治体であれば許可されないであろう数値を示して「安全」と言っているのです。

図:環境影響評価書案が示した新東京タワーによる電磁波の予測値
(日本の基準値を1としたときの比) 

環境影響評価書案に示された東京スカイツリーからの電波強度のグラフ

           新東京タワーからの距離(m)
(電磁波の強さは「環境影響評価書案 業平橋押上地区開発事業 -資料編-」に基づく)

表:各国・自治体の基準値等(539MHzの場合)
  電力束密度 (μW/c㎡)
日本、米国 359.4
国際基準値、韓国、豪州、ドイツ、フランス 269.5 0.75
ベルギー 67.4 0.19
イタリア、中国、ロシア、ポーランド 10 0.028
スイス 2.4 0.007
フランス・パリ市 1.06(携帯基地局について) 0.003
オーストリア・ザルツブルク州 0.001(携帯基地局について。屋外の場合) 0.000002
基準値等は、総務省「諸外国における電波防護規制等に関する調査報告書」
(2004年3月)に基づく

 また、本評価書案は、総務省「生体電磁環境研究推進委員会報告書」(本年4月)において「現時点では電波防護指針を超えない強さの電波より、非熱効果を含めて健康に悪影響を及ぼすという確固たる証拠は認められないと考える」との見解が出されたことを紹介しています(351頁)。
 しかし同委員会は、携帯電話事業者から研究資金を得ている研究者や、携帯電話など電気通信業界関係者、行政関係者でメンバーの大半が占められており、中立公正な立場とは言えないことが批判されています。インフルエンザ治療薬タミフルの安全性について検討する厚生労働省研究班の班長が、タミフルの輸入業者から研究資金を得ていたことが問題となり、この班長が研究班から外された経緯がありますが、電磁波と健康影響について研究する同委員会も、これと同様の問題点が指摘されているのです。
 また、同委員会は活動した10年間の全期間にわたって、実際の業務を「財団法人テレコム先端技術研究支援センター」に委託しました(紙智子参議院議員による質問趣意書への答弁書による)が、同センターは研究組織ではなく、携帯電話など電気通信業者が理事の大部分を占めており、この点からも、同委員会が中立公正でないという重大な疑義が生じています。
 同委員会の報告書自体も、実際に電磁波過敏症の診療や研究に取り組んでいる医師等への調査を実施しないまま電磁波過敏症を否定する内容としたり、論文になっておらず第三者からチェックを受けていない研究結果を掲載するなど、中立公正さや研究の質について疑義があります。
 住民の健康を守るという立場からは、このような問題が多い「生体電磁環境研究推進委員会報告書」を電磁波の安全性を論じる根拠として採用すべきではありません。
 また、新東京タワーは地デジの電波を送信するための電波塔だと説明されていますが、本環境影響評価書案によると、地デジ以外にラジオ、MCA、携帯電話の電波も送信することになっています。全国各地で、携帯電話事業者が住民に十分な説明をしないまま携帯電話基地局を設置し、住民と紛争になるケースが多発しています。この新東京タワーにおいても、ラジオ、MCA、携帯電話の電波送信については事業者によって何も説明されておらず、事業者として誠実な態度とは言えません。新東京タワーが建設されれば、事業者が収入増加のために住民の不安を無視して新東京タワーから送信する電波を増やしていき、住民が被るリスクが増大し続ける可能性が大きいものと考えられます。
3-1-2. 電磁干渉
 新東京タワーからの電磁波により発生が心配される問題は、人体への健康影響だけではありません。電気機器を誤作動させる「電磁干渉」の問題があります。「電波防護指針」を下回るような「弱い」電磁波について、その健康影響については研究者の間で議論が分かれていますが、電磁干渉については研究者の間で異論はありません。
 新東京タワー建設の「最終候補地」が、本評価書案の対象である「業平橋押上地区」に決まる以前の2001年、秋葉原の都有地を含む地区に新タワーを建設する構想が浮上しました。しかし、東京都は新タワー建設に協力することは困難との結論を出し、秋葉原タワー構想は潰えました。東京都は「協力することは困難」とした理由の一つとして、唐津一・東海大学教授(当時)が指摘した電磁干渉の恐れを挙げていました。
 唐津教授は、「秋葉原の頭の上で、デジタル放送の電波をばらまかれると、その真下では感度のよい受信機や各種の精密機器、特に微妙な測定器に妨害が入って使えなくなることが目に見えるのである。」「NHKでキチンとデジタル電波を出したときのシミュレーションをして測定してもらったら、やはり高感度の受信機ではノイズで全く受信不能という場合がでてきた。しかもNHKではこの実験現場のビデオまで、撮影して皆に説明してくれた。」と業界紙で報告、指摘しています(『電波新聞』2001年5月15日)。
 新東京タワー(すみだタワー)は、この秋葉原タワーと同目的・同規模であるので、同様の問題が懸念されます。新東京タワー建設の最終候補地である墨田区は「ものづくりの街」であり、中小企業を中心に多数の工場等が立地しています。これらで使用されている機器等に影響があれば、住民の生活に重大な影響を及ぼします。
 しかし、本評価書案は、電磁干渉について評価していません。

3-2. 景観
3-2-1. 景観
 景観について、本評価書案は、新東京タワーの建設により、「地域景観の特性の変化」について「新たな景観要素が創出されるものと考えられる」等と書き、また、「代表的な眺望地点からの眺望の変化」については「新たな都市景観のランドマークとして認識される」等と予測しています(279頁)。
 しかし、本事業の周辺地域の住民が享受すべき景観利益の保護という観点からの評価について、本評価書案は完全に欠落しています。
 低層住宅地等が多いこの地域に巨大タワーが建設されるという、極めて不釣り合いで不似合いな「新たな景観」の「創出」によって、この地域に住む少なくない住民に精神的損害を与えることが予想されます。

3-2-2. 圧迫感
 本評価書案は、「圧迫感の指標のひとつである形態率は、『建築物の水平面立体角投射率』と定義され、具体的には魚眼レンズ(正射影)で天空写真を撮影したときの写真内に占める面積比として表される。」として、各評価地点におけるこの面積比が最大9.7%であるとして、「圧迫感はない状況と考える。」と予測しています(299頁)。
 しかし、新東京タワーは、高さ約610mという通常建築物では考えられない高さである一方で、タワーであるため横幅は狭く、しかも高くなるほど幅が細くなっていくという特殊な形態であることから、建築物の規模の大きさの割には、魚眼レンズで撮影した写真内の面積比が大きな数値とならないことが特徴です。
 たとえ面積比の数値が小さくても、高さ約610mという国内で類例のない高さのタワーが、低層住宅も多いこの地域の住民に与える圧迫感は小さくないはずです。
 すなわち、超高層タワーという特殊な建築物については、通常の建築物で用いられる評価手法によっては、その圧迫感につき、正確な評価が出来ないというべきです。

3-3. 結論
 以上述べたように、本評価書案による電磁波の予測値によれば、本事業の実施によって周辺住民に健康影響を及ぼす可能性が否定できません。
 また、電磁波による電磁干渉についての評価が欠落しています。
 景観については、その重要な内容について評価が欠落しています。
 圧迫感については、評価手法が不適切です。
 したがって、現時点において、本事業の実施について是認されるべきではありません。

以上

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