新東京タワー(東京スカイツリー)を考える会

新東京タワー(東京スカイツリー)を考える会

2 電磁波

2 電磁波

携帯電話機から発信される電波(高周波電磁波)と脳腫瘍の相関性が多くの研究で示されています。また、携帯電話基地局近隣住民が健康被害を訴えている事例が全国であります。スカイツリーから送信される電波が、住民に影響を与えることはないのでしょうか。

テレビ塔についての研究

携帯電話中継基地局よりも格段に大きな出力の電波を送信する、テレビやラジオの放送タワー。それらの周辺で、がんの発症リスクが増加するとの研究報告もあります。

たとえば、オーストラリアの電信電話会社「テルストラ」の専属医だったホッキングらは、シドニー郊外にある三つのテレビ・ラジオ放送タワーと14歳 以下の小児がんとの関係を調べ、1996年に報告しました(1)。三つのタワーから近い3自治体と、その周囲の6自治体を比較したところ、脳腫瘍の発症率 と死亡率の増加は見られませんでしたが、白血病の発症率は1.58倍(95%信頼区間1.07~2.34)、死亡率は2.32倍(同1.35~4.01) と、有意に増加しました。リンパ性白血病に限ると、発症率は1.55倍(同1.00~2.41)、死亡率は2.74倍(同1.42~5.27)でした。

東京タワーはどうか

「科学と社会を考える土曜講座」(現・NPO法人市民科学研究室)などは2000年7~10月に、現在の東京タワーから半径2km以内の255地点 で電磁波を測定しました。全測定地点で日本の基準を下回っていたものの、諸外国の指針値(イタリアやロシア10μW/c㎡、スイス約2.4μW/c㎡)と 比べて高い地点もありました。

東京タワーからの電波による健康影響については「疾病の発症データが不備であるために、残念ながら東京タワー周辺地域を直接の対象にした疫学研究は 困難であると言わざるを得ない」(2)とのことで、ハッキリしたことはわかりませんでした。ただし同団体は、小児白血病発症率の全国平均をもとに、東京タ ワーが立地する港区における1958年(東京タワー完工)から2000年までの死亡数を計算すると5人となるところ、統計に示された実際の死亡数は17人 なので、「かなり多い感じがする」ともコメントしています(3)。

地上波デジタルテレビ放送

テレビの地上波デジタル放送(地デジ)は2003年12月に一部地域で始まり、放送エリアが順次拡大され、アナログ放送と並行して行われた後、 2011年7月にアナログ放送が終了して「完全地デジ化」しました(東日本大震災による被害が大きかった岩手、宮城、福島の各県のみ、2012月3月まで アナログ放送を継続)。

アナログ放送と比べるとデジタル放送のほうが、より弱い電波でテレビがきれいに映ります。そのため、デジタル放送電波のほうが出力は小さくなり、アナログ放送電波より人体への影響も小さい、と説明されることがありいます。

しかし、そう単純な話ではなさそうなのです。携帯電話も開発当初はアナログ電波でしたが、第2世代以降のデジタル携帯電話が急速に普及したことか ら、アナログ電波とデジタル電波を比べる研究が行われました。その結果、アナログ電波よりもデジタル電波(デジタル変調された電波)のほうが人体などへの 影響が大きい可能性を示す研究結果が多数報告されました(4)。

複雑な変調をされた電波は、自然界の電波とかけ離れたものです。元山梨大学講師の有泉均さんは「電磁波照射による細胞からのカルシウムイオン流出の ような、弱い電磁波による生体への影響は、そのエネルギーではなく変調を受けた信号の作用によるものです。地上デジタル放送電波のように短時間で振幅や位 相が激しく変化するような変調では、信号の作用が強まり、生体への影響が大きくなる恐れがあります」と指摘していました。

地デジ電波で体調悪化

実際に、地デジ電波で体調が悪化したと訴える方々がいる。

東京都内に住む男性会社員(36歳)は、2004年8月に東京タワーからの地デジ電波の出力が上がったことにより、自分が電磁波過敏症を発症したと おっしゃっていました(5)。また、福岡市の小山ゆみさん(42歳)は、自宅から約7kmの場所にある福岡タワーが地デジの試験放送を始めた2006年3 月から体調が悪化し、北里研究所病院(東京都)の主治医から「電磁波過敏症かもしれない」と言われました(6)。

イタリア、中国にスカイツリーは建てられない

新タワー建設事業は東京都環境影響評価条例に基づき、環境影響評価調査(環境アセスメント)の対象となり、事業者である東武鉄道とその子会社が環境 アセスメントを行いました。新タワーからの電波に対する住民の不安は根強く、住民からの要望を無視できずに、条例に規定されていない「電波(電磁波)」も 評価の対象となりました。

2007年8月に東武がまとめた環境影響評価書案は、新タワーからの電波送信によってもたらされる周辺地域における電磁波上昇レベルの予測値を示 し、それらは国の「電波防護指針」を下回っているため「地域住民の日常生活に影響を及ぼすことはないものと考える」と予測しました。

人体に急性影響を及ぼさない程度の弱い電波の長期曝露による健康影響の疑いが否定できないとして、海外では予防原則の考え方などから、日本の電波防 護指針に比べて格段に厳しい指針値などを設けている国や自治体があります。たとえば、イタリア、中国では、日本の0.028倍程度(539MHzの場合) という低い数値に設定しています(7)。
新タワーの環境アセスメントで示された予測値をもとに計算すると、新タワーから1000m以内のほとんどの距離でこの0.028を上回り、1000mを超 えても、なおしばらく上回りそうです(図)。東京スカイツリーからの電波は、環境アセスメントで示された数値に基づけば、イタリアや中国などでは安全だと は認めてもらえないのです。

環境影響評価書案に示された東京スカイツリーからの電波強度のグラフ

(「環境影響評価書案 業平橋押上地区開発事業 -資料編-」347~355頁の数値に基づき網代作成)

天津タワー周辺に「高層の建物は建てない」

中国と言えば、このような話があります。

墨田区と北京市石景山区との友好交流協定締結10周年を記念して、2007年10月に、山﨑昇・墨田区長を団長とし、区議会議長、区議有志からなる 友好親善訪問団が訪中しました。墨田区が新タワーを誘致した関係から、訪中団は天津市の天津テレビ塔(天津タワー。高さ415メートル)を視察しました。

その時、山﨑区長は中国の案内役の方に「タワーの電磁波で健康影響はありますか」と質問をした。山﨑区長は「影響はありません」という答えを期待し たでしょう。ところが中国の方は「影響はあります。しかし、基準値内ですし、周辺に高層の建物は建てないようにしています」と説明しました。山﨑区長は 黙ってしまったそうです。これは、訪中団の方から聞いた話です。

テレビ塔は広いエリアへ電波を送るため、送信アンテナに近い高さでは電波が強くなっており、高層住宅の住民は強い電波の直撃を受ける恐れがありま す。このため、中国では周辺に高層建築物を建てないよう配慮されているのでしょう。一方、スカイツリーから約1km南の錦糸町駅周辺や、約900m北東の 曳舟駅周辺では再開発が進み、超高層住宅が建てられています。住民の健康は大丈夫なのでしょうか。

人口密集地に建設

イタリアや中国などでは建てられない東京スカイツリーが、日本では人口密集地に建設されました。東京スカイツリーからおよそ1km以内に位置する墨 田区、江東区の各町の人口を合計してみたら、約9万3500人でした。1km以内だけで10万人弱が居住しているのです。もちろん、1km以遠にも大勢が 住んでいます。ちなみに、東京タワーからおよそ1km以内に位置する各町の人口の合計は、約3万8800人でした(8)。

スカイツリーが立地する墨田区押上の周囲は、住宅や商店、町工場が混在した下町で、木造の住宅も多く、コンクリート造の建物よりも電波をよく通すの で、住民の被曝量がより大きくなる恐れがあります。特に成長途上で電磁波の影響を受けやすい可能性が指摘されている子どもたちの多くは、自宅や、自宅から 近い保育園、学校などへ通い、毎日24時間、スカイツリーからの電波を浴び続けることになります。

日本共産党墨田区議団が行った「2010年5月区民アンケート」によると、「新タワー建設で心配されている問題は、ありますか」との質問に対し、 もっとも多かった「交通渋滞」(282名・50.1%)に次いで多かったのが「電磁波など健康被害」(167名・29.7%)でした。心配は「特になし」 は55名(9.8%)でした(回答者562人による複数回答)。

地デジ以外の電波も

東京スカイツリーが建てられれば、地デジ以外にもいろいろなアンテナが設置されて、電波の種類や量はどんどん増えていくだろうと当会は予想していたが、残念なことにその予想は当たってしまいました。

地デジ以外に、タクシー無線、マルチメディア放送、FMラジオの電波送信が行われています。このほか、環境影響評価書によると、携帯電話基地局の設置も想定されています。

アナログ放送のテレビタワーであっても、安全であるという保証はありません。まして、人口密集地に建設され、地デジという新しい電波を出す東京スカ イツリーは、国や墨田区、東武鉄道が言うように安全であるという保証はありません。当会は健康影響が発生しないことを願っていますが、心配です。

(1)Bruce Hockingら ”Cancer incidence and mortality and proximity to TV towers” 1996年

(2)科学と社会を考える土曜講座『東京タワーの電磁波リスク・調査報告 資料集』2002年、「東京タワーの電磁波リスク調査報告 概要」2頁目

(3)科学と社会を考える土曜講座、前掲資料、22頁

(4)植田武智『しのびよる電磁波汚染』コモンズ、2007年、36頁

(5)網代太郎『新東京タワー~地デジとボクらと、ドキドキ電磁波』緑風出版、2007年、84頁

(6)加藤やすこ『ユビキタス社会と電磁波』緑風出版、2008年、74頁

(7)在京6社の地デジ電波は521~557Hz。その中央値であるテレビ朝日539Hzという数値を使って計算すると、日本の基準値は「周波数 (Hz)÷1.5」なので、539÷1.5≒359.3μW/c㎡。イタリア、中国などは10μW/c㎡。10÷359.3≒0.028となる

(8)港区、墨田区、江東区のウェブサイトで公表されている、住民基本台帳に基づく町丁目別人口データ(2011年12月1日現在)をもとに計算(日本国籍でない住民は含まれていない)。

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