新東京タワー(東京スカイツリー)を考える会

新東京タワー(東京スカイツリー)を考える会

2007/01/09 環境アセスメント計画書への意見書

2007/01/09 環境アセスメント計画書への意見書

 新東京タワー(すみだタワー)を考える会は2007年1月9日、新東京タワー事業(業平橋押上地区開発事業)の「環境影響評価調査計画書」に対する意見書を、東京都へ提出しました。

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東京都環境局都市地球環境部環境影響評価課 御中

「環境影響評価調査計画書」に対する意見書

一、団体名称
 新東京タワー(すみだタワー)を考える会

二、代表者氏名
 大久保貞利、網代太郎

三、団体住所
 東京都墨田区…

四、対象事業の名称
 業平橋押上地区開発事業

五、環境保全の見地からの意見
第1 「新東京タワー」からの送出電磁波
1.電磁波による健康影響問題
 業平橋押上地区開発事業(以下、「本事業」という)の中心は、「新東京タワー」(以下、「新タワー」という)の建設である。新タワーは関東広域圏へ向けて「東京タワーに代わって地上デジタル波を送信する」(環境影響評価調査計画書1頁)ことが目的とされている。
 しかしながら、本事業について今般公表された「環境影響評価調査計画書」(以下「本計画書」という)には、新タワーから送出される電磁波(電波)による各地の電力密度の上昇等について、また、それらによる健康影響等についての環境影響評価が含まれていない。
 電磁波による健康影響は、新しい公害問題として海外各国では市民の関心が強く、多くの国では、携帯電話を子どもに使わせないよう勧告したり(英国)、学校などのそばにある携帯電話タワー(中継基地局)を移動させる(スウェーデン)など、それぞれの政策を講じている。また、地方自治体においても、国よりも厳しい電磁波の基準値を設定する(パリ)などの動きがある。
 国内においても、携帯電話タワーへの反対運動が各地で展開され、設置が中止されたり、または、設置された携帯電話タワーが撤去された例が数多くある。
 新タワーからの電波は、携帯電話タワーからの電波より、はるかに強い。海外の疫学調査では、放送タワー周辺で白血病などのリスクが高くなるという報告もある(オーストラリア・ホッキング論文等)。また、現在の東京タワー周辺における調査結果によれば、イタリアやロシアの基準値を上回る電磁波が測定された場所もある(「NPO法人市民科学研究室」等による調査等)。
 また、仮に新タワーからの電磁波が「健常者」には影響がないものだとしても、ごく微弱な電磁波によって体調を崩す「電磁波過敏症」の方々もおり、そのようないわば「電磁波弱者」の方々が新タワーへの対応を検討できるようにするためにも、電磁波についての環境影響評価の実施は必須である。
 本事業においては、新タワーから送出される電磁波と、それによる健康影響等についての環境影響評価調査を実施すべきである。

2.東京都環境影響評価条例の本旨に照らして
 東京都環境影響評価条例施行規則第6条(環境影響評価の項目)に規定された調査項目は現在、17項目であり、その中に「電磁波」は含まれてないが、同条には17項目のほかに「その他知事が定める項目」も含まれている。
 (1)本事業は610mもの高さを有し高出力のデジタル高周波を送出する放送タワーを人口密集地に新たに建設するという国内で類例のないものであり、(2)電磁波による健康影響の疑いについての研究報告は特に近年になって多く発表されている-ことを考えれば、本事業の環境影響評価の項目・手法については、既存の条文等を機械的に当てはめてよしとすべきではない。新しいタイプの事業、そして、新しい環境問題には、新たな項目・手法の環境影響評価が実施されてしかるべきであり、本事業における新タワーからの送出電磁波は、まさに「その他知事が定める項目」の条文に積極的に該当させるべきものである。
 電磁波の健康影響については、世界保健機関が1996年から「国際EMFプロジェクト」を設置しており、高周波電磁波の環境保健基準を2008~09年頃にまとめるとされている。このような国際的な動向に対応するためにも、新タワーからの送出電磁波についての環境影響評価は必要である。
 そもそも、東京都環境影響評価条例第2条(定義)は、「環境影響評価」について「環境に著しい影響を及ぼすおそれのある事業の実施が環境に及ぼす影響について事前に調査、予測及び評価」を行うこと等と定義している。
 本事業の中核である新タワーが及ぼすおそれがある「著しい影響」とは、第一に電磁波であり、これを項目に含めない環境影響評価調査とは、すなわち、同条例の本旨にもとる欠陥調査であると言わざるを得ない。

3.「技術指針」の作成
 東京都環境影響評価条例第10条(技術指針の作成)は、「知事は、既に得られている化学的知見に基づき、(略)必要な調査等についての項目、方法、範囲その他の事項について、技術上の指針(以下「技術指針」という。)を定めるものとする。」と規定している。
 電磁波についての「技術指針」は作成されていないので、これを新たに作成する必要がある。
 いわゆる「熱効果」を及ぼさない程度の「微弱」な電磁波に長期にわたって曝露された場合の健康影響については、研究者の間でも「影響あり」という見解と、「影響なし」という見解に分かれているのが現状である。
 国際非電離放射線防護委員会が定めた電磁波に係る現行のガイドラインや、このガイドラインに基づいて総務省が設定した「電波防護指針」の基準値は、「非熱効果」による健康影響の予防をまったく考慮していない数値である。本事業の事業者である東武鉄道株式会社等は、新タワーから送出される電磁波がこの電波防護指針を「遵守するので、新タワー周辺の環境に影響を与えることはない」と主張している(東武鉄道株式会社等によるウェブサイトhttp://www.rising-east.jp/faq.html)。
 しかし、非熱効果を無視したこの指針値を大幅に下回る電磁波によっても健康影響が起こる可能性について、現在、研究者の間で評価が分かれているのが実情であり、事業者が主張するように、安全性が確定されているものではない。
 技術指針作成にあたっては、電磁波についての専門家の見解を踏まえる必要があるが、住民の健康を守る観点からは、このような最新の研究報告に即して技術指針が作成されるべきである。すなわち、電波防護指針を追認する立場の専門家だけではなく、「微弱」電磁波の長期間被曝による健康影響のおそれを重視する立場の専門家の見解を積極的に取り入れながら、技術指針が作成されるべきである。

第2 景観
 本計画書105頁の表8.2-30(1)によると、「②代表的な眺望地点及び眺望の状況」の「調査範囲・地点」は「不特定多数の人の利用度や滞留度が高い場所等の代表的な地点として計画地の周辺14地点」としている。
 また、本計画書107頁の表8.2-30(2)によると、「③圧迫感の状況」の「調査範囲・地点」はわずか「5地点」である。
 しかし、調査対象として「不特定多数の人の利用度や滞留度が高い場所」を優先する理由が不可解である。国立マンション訴訟の最高裁判決(2006年3月30日)は「良好な景観の恩恵を受ける利益は法的保護に値する」との判断を示している。「不特定多数の人」のみならず、地元地域に長年居住してきた住民が有する景観権・眺望権等こそが保護の対象であり、そのための評価が必要である。
 特に高さ610mという日本では類例のない高さのタワーが下町であり住宅密集地であるこの地に建てられることによる景観・眺望への影響、圧迫感は極めて大きく、従来の手法よりも踏み込んだ調査が求められる。
 特に圧迫感については、2006年7月5日、名古屋高裁は「圧迫感なく生活する権利ないし利益については、客観性、明確性を備えるに至っておらず、法的保護の対象となるに足る内容を備えていないとの指摘もあるが、日照、眺望、通風などと同様に隣接建設物等から受ける圧迫感も住環境を構成する重要な要素の1つであり、少なくとも圧迫感なく生活する利益は、それ自体を不法行為における被侵害利益として観念できる」との判断を示しており(日本環境法律家連盟『環境と正義』2006年10月号)、従来軽んじられてきた住民の権利を認めていく動きとして注目される。
 以上から、本計画書に示されたそれぞれの調査における調査地点数では、いずれも不足であるいうべきである。
 調査手法については、地元住民が被るおそれがある損害等を評価できるよう、地元住民がそれぞれ自宅からの景観、眺望、圧迫感を確認できるシミュレーションシステムの開発・作成等、より詳細な調査を実施すべきである。

以上

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